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第四回若手集会を開催いたしました

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2019年8月21日から23日にかけて、北海道様似郡様似町幌満において、第四回若手集会を開催いたしました。今回の若手の会は、東京大学の小澤一仁教授の案内による幌満かんらん岩体を中心としたアポイ岳ジオパーク巡検および幌満かんらん岩体に関する講演と、参加者の研究発表から構成され、領域内外から学生14名を含む総勢23名の参加がありました。アポイ岳ジオパークを舞台に、マントル物質やダイナミクスに関する理解と議論を進めました。

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参加者は21日朝に新千歳空港で集合し、若手会の舞台となる様似町まではチャーターバスでの移動となりました。若手の会は、様似町役場の前に整備された「かんらん岩広場」の見学からスタートしました。

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かんらん岩広場には、アポイ岳ジオパークに分布する様々なかんらん岩や深成岩が組織や構造が分かりやすいように切り出され、美しく研磨されたかたちで展示されています。まずは参加者がそれぞれ自分の目で大型標本を観察した後、小澤教授の解説のもと、さらに詳細に岩石の構造を観察しました。

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かんらん岩広場で観察の基礎を学び、いよいよ天然のかんらん岩の露頭へと向かいました。若手会初日の2つめの見学地は、かんらん岩の採石場です。この採石場では、工業資材としてかんらん岩の採掘を行っています。

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今回は東邦オリビン工業株式会社から立ち入り許可を頂き、採石場内で露頭観察を行ったほか、ハンマーを振るってサンプル採取を行いました。先ほどかんらん岩広場でしっかりと解説を受けていたこともあり、採石場で採取できた様々なかんらん岩の組織や成因に関する議論が盛り上がりました。

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採石場での観察が終わると、宿泊先およびポスターセッションの舞台となる「アポイ山荘」へと移動しました。アポイ山荘のかんらん岩を利用した露天風呂や、現地の海産物や農作物もふんだんに使った豪華な夕飯を堪能したあとは、小澤教授によって、幌満の多様なかんらん岩を産んだ地球科学プロセスに関する講演が行われました。幌満かんらん岩体とはどのようにして形成されたのか?かんらん岩からどのような情報が読み取れるのか?など、ミクロからマクロまで様々なスケールの議論からなるエキサイティングな講演でした。小澤教授の講演終了後も、参加者による懇談や議論は続きました。

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2日目は天気が心配されましたが好天に恵まれ、お弁当持参でアポイ岳に向かいました。

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アポイ岳では、ダナイト・ハルツバーガイト・レールゾライト・ウェールライト・はんれい岩といった様々な岩相を観察することができ、その見分け方を露頭で学ぶことができました。どのような岩相なのか初見ではわからなかった参加者もいましたが、巡検を進めるうちに目も慣れてきて、岩相の移り変わりがわかるようになったのは印象的でした。

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また、1日目夜の小澤教授による解説内容を実際に露頭で確認することで地質構造や研究例の理解も進みました。例えば、小澤教授の講演に登場した、幌満岩体の熱履歴解析に使用されたかんらん岩中の直方輝石を観察することが出来ました。この直径1 cmを超える直方輝石は、実際に露頭で観察すると非常に大きく感じられました。標高810mのアポイ岳山頂では、お弁当を食べました。

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風が強く気温も下がってきたことや、山頂はダケカンバなどの樹林帯になっていて眺めもあまり良くないこともあり、食事を終えるとすぐに次の露頭へと向かいました。アポイ岳山頂からさらに尾根沿いに吉田岳の方に向かい、規則的に互層したかんらん岩とはんれい岩の見事な露頭を観察しました。

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はんれい岩は風化に対して強く,相対的に盛り上がっているのでかんらん岩と区別がつきます。この露頭で2日目の巡検の予定を終え、下山の途につきました。途中厳しい上りの区間もありましたが、離脱や怪我などする参加者もなく、無事巡検を終えることができました。

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朝からの登山で皆さんさすがに疲れた表情を見せていたため、巡検後は、休憩と入浴の時間となりました。この時間にも参加者同士での議論が進んだほか、現地の方々と交流する参加者の姿も見られました。昨夜と同様の豪華な夕食の後、参加者によるポスターセッションが開催されました。

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幌満かんらん岩の研究をはじめとしたフィールドベースの研究、高精度分析や超高圧実験、理論計算など様々な内容について活発な議論が繰り広げられました。昨日に続き、参加者間での議論は夜も続きました。

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最終日となる3日目はまずアポイ岳ジオパークビジターセンターを訪問し、ジオパークを構成する岩石や動植物、そして様似地域の歴史に関する展示を見学しました。

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当初のプログラムではビジターセンター訪問後は海岸付近で日高衝上断層の露頭などを見学する予定でしたが、荒天のため、風雨の影響が少ない山側に位置する石灰岩やチャートの露頭を見学することとなりました。これらの生物起源の岩石は、本来は海洋底で形成される岩石です。北海道中央部が大陸縁の沈み込み帯だった時代に付加体として陸側に付け加わった海洋プレートの一部を、現在陸上の露頭として観察していることになります。これらの付加体が形成されたのち、この大陸縁に現在の北海道東部が衝突したことで形成されたのが、日高山脈、そして日高かんらん岩体だと考えられています。日高山脈や北海道の形成履歴を物語るこれらの露頭を観察して巡検は終了となりました。

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空港に移動するバスの車内では最後に小澤教授からコメントを頂き、新千歳空港で解散となりました。さわやかな気候の北海道での2泊3日での巡検とポスターセッションを通して、マントルに関する議論と参加者間の親睦が深まりました。若手会の回数を重ねることで、研究面も含めた様々な交流が進むとともに、参加者の輪も広がってきています。今後の研究面や人的交流のさらなる進展が楽しみです。
今回の若手集会の開催に関して巡検案内と幌満かんらん岩体に関する講演の依頼を快諾して頂いた東京大学理学系研究科小澤一仁教授、研究会の企画及び現地での巡検についてサポート頂いた加藤聡美様をはじめとした様似町とアポイ岳ジオパークの関係者の皆様、そして、採石場での巡検とサンプリングの許可を頂いた東邦オリビン工業株式会社に感謝いたします。今回も、新学術領域事務局から様々な面で多大な支援を頂きました。ありがとうございます。
上木賢太(海洋研究開発機構)、秋澤紀克(東京大学大気海洋研究所)

<参加者の声>
今回は幌満かんらん岩体で核マントルの相互作用に関して議論を交わしました。幌満かんらん岩体は私の研究のテーマ地であるため今回の勉強会からアポイ岳での巡検まで、すべてが自らの糧になりました。小澤先生のご講演では幌満かんらん岩体の構造に関する貴重なお話を伺い、ポスターセッションでは自分の研究に他分野からの様々なアドバイスを頂くことで今後の研究活動において新たな課題を見つけるための非常に良い刺激となりました。なかなか自らでは赴くことのできない地でもこのような若手会があることで興味を持ち、他の研究者と共に学ぶことができるのは素晴らしい機会であると感じました。次回の若手会も必ず参加したいと思います。
大澤 拓未(横浜国立大学/M1)

私はふだんは高圧実験による研究をしていてフィールドワークの機会が少ないこともあり、今回のアポイ岳巡検では、ほかの参加者の方々に教えていただきながらたくさんのことを学ぶことができました。足元の広大なカンラン岩体を眺め、その形成の過程を想像しながら歩くことで、地球表層のダイナミクスを肌で感じることができました。今後も実験室や図書室に閉じこもることなく、実際のフィールドで岩石に触れる機会を増やしていきたいと思います。また、同世代の学生との交流のなかで、自分と似た分野でこんなにも熱心に研究に取り組んでいる人たちがいるのだという素朴な驚きがあり、とても良い刺激を得ることができました。
岡 健太(東京大学/M2)

今回の若手の会では巡検とポスター発表の二本立てで、日中は岩石観察、夕飯後はポスターを囲い白熱した議論が行われました。巡検は小澤先生の案内で行われ、露頭の全体の構造や鉱物の微細組織を観察し、どのような過程を経て上昇してきたかについて教わりました。巡検は数回しか参加してこなかったのですが、岩石を自分で観察することの重要性を再認識しました。ポスターセッションでは、理論計算、高圧実験、地球化学など参加された方の専門分野が幅広く、異なる分野の方との交流が盛んに行われました。普段とは異なる視点からの指摘が多く、非常に有意義な議論ができました。今回の若手会での経験を今後の研究につなげていこうと思います。
勝田 稔貴(東京工業大学/M1)

It was a fun learning experience for me. I learned a lot about mantle petrology through the discussions and field excursion. I work on ultramafic rocks and I was interested in the lecture given by Prof. Ozawa and climbing Mt. Apoi to see outcrops. He discussed different studies done on the Horoman Peridotite Complex which include characteristics and its origin. The studies also served as framework on various mantle petrological interpretations. The outcrops in the Horoman Peridotite Complex are also exceptionally fresh and served as excellent examples throughout the discussions on the field. I also met a lot of scientists from different fields and I learned about their works which spanned from petrology, geochemistry, experimental and theoretical works. The meeting was very enjoyable since we were able to learn not just inside the room for discussions but also study rock exposures on the field. In this meeting, I learned more about the topics presented, enjoyed geology on-field and met new friends.
Juan Miguel Guotana (金沢大学)

「核-マントルの相互作用と共進化」第四回若手研究集会 概要

日時 2019年8月21日~8月23日(二泊三日)
○集合 8月21日(水)10時半@新千歳空港
○解散 8月23日(金)16時@新千歳空港
場所 北海道様似郡幌満 アポイ山荘 (公式HP
概要 東京大学小澤先生の案内による日高かんらん岩体巡検@アポイ岳(片道約二時間半の登山コース)・勉強会
参加費 23,000円 (二泊三日の宿泊費・巡検参加費を含む)
※学生には交通費・宿泊費の支援有り
参加登録 締め切りました
お問い合わせ 若手の会ワーキンググループ:cm_wwg-at-core-mantle.jp
世話人 上木賢太(JAMSTEC)、秋澤紀克(東大大海研)

タイムテーブル

【8/21(水)】
10:30
新千歳空港集合
<昼食:道の駅で各自購入>
13:30-14:00
様似町 かんらん岩広場
15:00-16:00
東邦オリビン工業
16:30頃
ホテルチェックイン
17:00-
東京大学小澤先生による幌満解説
ポスターセッション
・板野敬太(金沢大学)”Petrology of amphibole-rich ultramafic rock from the Hida metamorphic complex: implication for arc magma differentiation”
・萩原雄貴(北海道大学)”Size-dependent density and composition of fluid inclusions in mantle xenolith”
・藤田 遼(東京工業大学)”Origin of mantle xenoliths from Kaula Island, Hawaii:Constrains fromOs isotope and highly siderophile element compositions”
・Juan Miguel GUOTANA(金沢大学)”Serpentinization and carbonation of dunites in the western part of the Isua Supracrustal Belt, Southwestern Greenland”
・大澤拓未(横浜国立大学)「北海道 幌満かんらん岩から回収されたTiに富む特異的なコランダムの報告」

【8/22(木)】
8:30~15:00
アポイ岳登山・巡検
16:00-
ポスターセッション
・鎌田誠司(東北大学)”Sound velocity of Fe3S under high temperature and pressure”
・大場 篤朗(愛媛大学)”First-principles prediction of hydrogen partitioning between the core and mantle”
・近藤 望(愛媛大学)”Partitioning behavior of cerium between zircon and granitic melt: insight from chemistry and melt structure”
・五味 斎(岡山大学)”Electrical resistivity and thermal conductivity of fcc Fe: Stratification of Mercury’s core”
・青山慎之介(横浜国立大学)「新潟大での学術成果: 四種硫黄同位体分析法の確立」
・久保田 勇祐(東京工業大学)”Mass-independent sulfur isotope signature from the 2.7 Ga Belingwe komatiite: Recycling of crustal material in Archean”
・勝田稔貴(東京工業大学)”Development of analytical methods for S-O clumped isotope in sulfate”

【8/23(金)】
9:00
ビジターセンター訪問
10:45-11:00
日高衝上断層
11:20-12:00
河原でサンプリング
12:00-13:00
コンビニで各自昼食を購入・サンプルの発送
13:00
様似出発
16:00
新千歳空港解散