A03大林政行主任研究員(JAMSTEC)が共同研究者として執筆に参加した「Adjoint tomography of the crust and upper mantle structure beneath the Kanto region using broadband seismograms」が2019年度日本地震学会論文賞受賞対象論文となり、大林政行主任研究員が同賞を受賞しました。
この賞は、日本地震学会の学術誌「地震(学術論文部)」または「Earth, Planets and Space」「Progress in Earth and Planetary Science」に発表したすぐれた論文により、地震学に重要な貢献をしたと認められる者を対象として日本地震学会から贈られる賞です。
タイトル:Adjoint tomography of the crust and upper mantle structure beneath the Kanto region using broadband seismograms
著者:Miyoshi, T.(三好 崇之), M. Obayashi(大林 政行), D. Peter, Y. Tono(東野 陽子) and S. Tsuboi(坪井 誠司)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science(2017)4:29 10.1186/s40645-017-0143-8
受賞理由
波形インバージョン法による地球内部構造の推定は、高速大容量の数値計算を必要とするため、実際の構造への適用はこれまで限定的であった。本論文は、二つのプレートが沈み込む関東地域の複雑な地殻・上部マントルに波形インバージョン法を初めて適用し、観測波形の再現性を定量的に示しつつ、得られた3次元速度構造を地学的に解釈することに成功した先駆性の高い論文である。
本論文では、140の地震イベントに対して関東周辺の16のF-net観測点で取得された約4400の波形に、波形インバージョン法の一種であるアジョイントトモグラフィー法を適用し、走時トモグラフィーで得られた既存の3次元構造を初期モデルとしてP波とS波の速度構造を推定した。解析には5-30秒の3成分変位波形を用い、関東地域を1600万節点で表現したメッシュ構造を用いたスペクトル要素法によってフォーワード計算とアジョイント計算を実施した。理化学研究所の「京」コンピューターを用い、計6720回のシミュレーションと約62000ノード時間という大規模計算によって16回のイテレーションを行い、最終的な速度構造モデルを得た。本論文の速度構造モデルは僅か16観測点の波形データから得られたものであるが、より多くの観測点の走時データを用いた初期モデルと比較して波形の再現性が24%改善されており、この新しい手法の有用性を示している。さらに、解析に用いていない18の地震イベントに対する波形を予測し、初期モデルに比べた波形の再現性が47%改善できたことを示している。本論文で得た3次元速度不均質構造は、初期モデルと整合的な空間パターンを示しているが、初期モデルに比べて顕著に遅いS波速度異常域を検出しており、本論文の手法によって蛇紋岩の存在や火山活動をより高分解能で検出できる可能性を示している。
近年の走時トモグラフィー法の発展により、地震学は固体地球内部の理解を深める上で極めて重要な役割を果たしている。近年のスーパーコンピューターの進歩を背景として、波形インバージョン法というさらに新しい手法を開拓した本論文は、既存の手法の持つ限界を超えて地球内部の新たな理解をもたらす可能性を秘めたものであり、今後の内部構造研究に大きな意義を持つものである。
以上の理由から、本論文を2019年度日本地震学会論文賞とする。